横溝作品の音楽
最終更新 2005/11/12

CD「金田一耕助の冒険」

CD 映画「金田一耕助の冒険」サントラ

CD「悪魔の調べ〜ミステリー映画の世界〜」

「悪魔が来りて笛を吹く」はどれがいいか?

映画「八つ墓村」サントラ(二つ)を聴く

●CD「横溝正史MM(ミュージックミステリー)の世界 金田一耕助の冒険」(2000.1.7 キング KICA3034)

 1 金田一耕助のテーマ(作:編曲 高田弘)
 2 八つ墓村(同 成田由多可)
 3 仮面舞踏会(高田弘)
 4 本陣殺人事件(高田弘)
 5 獄門島(成田由多可)
 6 悪魔の手毬唄(羽田健太郎)
 7 迷路荘の惨劇(羽田健太郎)
 8 悪魔が来りて笛を吹く(羽田健太郎)
 9 三つ首塔(羽田健太郎)
 10 犬神家の一族(羽田健太郎)
<BONUS TRACKS>
 11 愛のバラード(「犬神家の一族」より 歌:金子由香利)
 12 仮面(「犬神家の一族」より 歌:金子由香利)
 13 愛の女王蜂(「女王蜂 智子のテーマ 歌 塚田三喜夫)
 14 少女夜曲(歌 塚田三喜夫)
 15 まぼろしの人(「横溝正史シリーズ」主題歌 歌 茶木みやこ)
 16 あざみの如く棘あれば(「横溝正史シリーズII」主題歌 歌 茶木みやこ)
 17 あなたは何を(「横溝正史シリーズII」挿入歌 歌 茶木みやこ)
 18 糸電話(「金田一耕助シリーズ」主題歌 歌 古谷一行)
 19 見えない雨の降る街を(同主題歌 歌 古谷一行)

 このCDは、横溝作品の世界を、高田弘、成田由多可、羽田健太郎の三人が、イメージして作曲した、インストルメンタルによるイメージアルバムで、もともとのLPは、77年に発表されました。
 70年代半ばといえば、マンガなどのイメージアルバムも多く出た、イメージアルバムブームの頃で、それでこういう企画が出たのでしょう。
 余談ですが、マンガのイメージアルバムは、多数出たのでピンからキリまでありますが、中には、深町純の「月下の一群」(原作:吉野朔美)や「わかつきめぐみの宝島ワールド」のような、秀作も多くあります。
 このCDの曲も質が高く、ライナーの解説に早川優氏(早見裕司とは別人です)が書いていますが、中の曲は、映画『金田一耕助の冒険』にも流用されています。
 ちなみに、映画『金田一耕助の冒険』もサントラがCD化されました。つまり、『金田一耕助の冒険』というCDは、二枚あります。おまちがえのないよう。
 それが今回、CDになるに当たって、ボーナストラックとして、当時シングルで出たイメージソングなど、そして、私が待ちに待ったTV「横溝正史シリーズ」のテーマ曲「まぼろしの人」「あざみの如く棘あれば」を付けてくれました。とてもうれしいことです。(古谷一行ファンには、「糸電話」がうれしいのでしょうね)
 「横溝正史シリーズ」というと、とにかくこの二曲の印象が強く、映像の内容は忘れていても、歌は、すぐにでも口をついて出てくるぐらいです。少し淋しげなリリカルさが、横溝世界をよく表わしていると思います。
 当時、シングルが買えなかったので、「まぼろしの人」はFMをエアチェックして(死語?)、「あざみの如く棘あれば」は、FMでもかからなかったので、TVから直接ラジカセに録音して聴いたものでした。
 この二曲を作曲し、歌った茶木みやこさんは(作詞は阿久悠)、京都在住のシンガーソングライターで、今も京都で活動されていらっしゃるそうです。
 最近お会いした人のお話では、このお仕事は、ずっと京都で活動している茶木さんの許に、突然のように入ってきたものだった、ということでした。
 横溝作品の音楽は、どれもよくできていますが、この二曲は、その中でも名曲だと思います。残念ながら、このCDも、現在は絶版になってしまいました。「まぼろしの人」が、再び幻でなくなる日が来ることを祈っていたのですが、現在は残念ながら絶版です。

 以下は余談ですが、95年に、Nifty-Serve(現@nifty)のミステリ、推理小説フォーラム(FSUIRI)の統一オフが、名古屋で開催されたとき、その日限りのバンドが結成されました。ギターは、たくきよしみつさん、津原やすみ(現・泰水)さん、ベースは小中千昭さん、ヴォーカルが柴田よしきさんで、綾辻行人さんも参加されました。その演奏の中に「まぼろしの人」があり、横溝正史ファン倶楽部代表だった私は、柴田さん(も横溝正史ファン倶楽部のメンバーでした)に呼び出されて、一緒に歌う、という恥をかきました。でも、楽しかったですね。


●CD 映画「金田一耕助の冒険」サウンドトラック(1996.4.20 コロムビア COCA-13298)絶版

 さて、名前が同じということで、こちらは1979年、大林宣彦監督の映画「金田一耕助の冒険」のサントラの復刻です。
 金田一映画は、ブームの火付け役、ATGの「本陣殺人事件」からして、総じて音楽に詩情と洗練があります。その方向性を作った「本陣」の音楽は、なんとまあ、大林宣彦なんですよね(監督の高林陽一と古くからの8ミリ映画仲間だった)。
 その大林監督自身による「金田一耕助の冒険」の音楽は、小林克己。「近田春夫とハルヲフォン」のギタリスト、だそうです。で、歌と演奏、作曲の一部は、センチメンタル・シティ・ロマンス。1973年に結成された、「西海岸系のロックバンド」だそうです。最近は、「ポンキッキーズ」で有名になった、EPOの「キミとボク」にも参加しています。知る人ぞ知る、というバンドですね。
 さて、映画「金田一耕助の冒険」に対する評価は、映像のページにいずれ詳しく書くとして、一口で言ってしまうと、都会的なリリカルさと遊びを持った映像の作品です。それは、例えば端的に言うと、古谷一行の金田一耕助が、袴にジーンズのポケットを縫いつけて、ローラースケートで走り回る、といったところにも現われています。ということで、音楽も、都会的なリリシズムにあふれています。愛らしく、ポップで、ちょっとセンチメンタルな雰囲気を持っています。
 実は、笑えないパロディが満載されたこの映画は、その意匠を取り去ってみると、非常にセンチメンタルな詩情にあふれた作品なんですが、この音楽は、その映画の本質を、よく表わしています。
 角川映画は、サントラを売ることにも熱心でしたが、このアルバムはLP発売当時、あまり派手には売られず、私も高校生でお金がなかったので買えませんでした。
 で、今回CDで買ってみると、収録は全8曲、4曲がボーカル曲でした。劇中に使われているBGMで、入っていないものがけっこう多くあります。いい曲、多かったんだけどなあ。こういう扱いを受けたのは、この映画が、松田優作の「蘇える金狼」との二本立ての、二本目のほうだからではないか、と思います。
 そこが残念ではあるのですが、ここに入っている曲だけからでも、映画の雰囲気は、充分に味わってもらえると思います。
 なお、ボーカル曲を含めて、音楽はフルコーラスで入っていますので、フルコーラスが聴きたい人はこのCD、BGMを細かく聴きたい人は、映画のDVDを視聴するのがいいでしょう。
 ……と書いたんですけれど、このCDも絶版なんですよね。なので、今は逆に、映画のDVDを買うしか、この映画の音楽を聴く方法は、なくなってしまったのでした。昔は、ビデオがなかったので、映画ファンはサントラを買って、映画の記憶を反すうしていたものですが逆になってしまいましたね。
 映画のサントラは、足が早いですから、好きな映画のサントラは、見つけたら即座に買いましょう、ということで。


●CD 「悪魔の調べ〜ミステリー映画の世界」(1996.01.20 コロムビア COCA-13095)絶版

「獄門島」より
 1 愛のテーマ
 2 獄門島のテーマ
 3 金田一耕助のテーマ
 4 巡礼の旅
  (作・編曲・田辺信一)
「八つ墓村」より
 5 落武者のテーマ
 6 道行のテーマ
  (作曲・芥川也寸志 編曲・神保正明)
「犬神家の一族」より
 7 愛のバラード
 8 悲しみのテーマ
  (作曲・大野雄二 編曲・神保正明)
「本陣殺人事件」より
 9 本陣殺人事件のテーマ
  (作曲・大林宣彦 編曲・神保正明)
「悪魔の手毬唄」より
 10 哀しみのバラード
 11 仙人峠
 12 愛と悲しみの闇
  (作曲・村井邦彦、12は田辺信一 編曲・田辺信一)
「女王蜂」より
 13 女王蜂のテーマ
 14 秀子のテーマ 閉された想い
 15 愛と憎しみ
 16 智子のテーマ 愛の女王蜂
  (作・編曲・田辺信一 16は、作曲・三木たかし 編曲・田辺信一)
「病院坂の首縊りの家」
 17 病院坂の首縊りの家のテーマ
 18 怒れる海賊たち −THEME OF ANGRY PIRATES−
 19 呪われたる運命
 20 何処へ
  (作・編曲 田辺信一)

 もともとのLPの発売は77年、東宝レコード(今はこの会社はありません)から出ました。
 東宝の、石坂浩二金田一のシリーズは、「犬神家の一族」が角川映画との提携作品ですが、その後の「悪魔の手毬唄」「獄門島」は、純粋な東宝映画です。
 その、東宝が音楽の版権を持っている二作のそれぞれのサントラからの抜粋に、版権のない角川の「犬神家の一族」、松竹の「八つ墓村」、ATGの「本陣殺人事件」(これはサントラは出ていません)をカバーしたものを加えたオムニバス、というわけです。
 更にこのCDでは、LP発売後に出た、「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」からも、サントラを抜粋して加えています。
 現在、「犬神家の一族」と、その後の東宝の、石坂金田一の四本の映画のサントラは、CDで発売中です。また、松竹の「八つ墓村」も、CDが出ています。ですから、極論してしまうと、このCDでしか聴けないのは、「本陣殺人事件」だけ、になります(DVDを買えば聴けるには聴けますが)。
 しかし、それらを完全に集めよう、という私のような人間以外の方には、このCDは、非常に手頃な一枚と言えるでしょう。残念ながら、もう絶版ですが。
 ちなみに、この原稿を書いている最中に気がついて、松竹の「八つ墓村」と、豊川悦史の「八つ墓村」をインターネットで検索したところ、前者は別の会社から出直していてまだあるのですが、後者は在庫僅少でした。どっちも持っていなかったので、あわてて注文してしまいました。このサイト、お金がかかるなあ。でも、おかげで、横溝正史作品のCDを、コンプリートすることができました。
 それはさておき、カバーされている三作品も、出来はなかなか悪くありません。大売れした「犬神家の一族」は別として、他の二つなどは、当時のFMの映画音楽番組でも流されたほどで、例によってエアチェックで聴いていた高校一年生の私には、これが「本物」というか「決定版」だったんですよね。
(「八つ墓村」は、シングルが出ていたそうなので、それかもしれませんが)
 
 というわけで、横溝映画の音楽を概観したい方には、このCDはお勧めです。絶版ですが、中古で見つけたらぜひどうぞ。早川優氏の解説も、充実しています。


●「悪魔が来りて笛を吹く」はどれがいいか?

「悪魔が来りて笛を吹く」とは、原作のタイトルにもなっていますが、その実体は、作中の冒頭で失踪する元子爵、椿英輔が作曲した、フルートのソロ曲です。この曲は、作品全体のトーンを物語っているだけではなく、ミステリとしての仕掛けにも関わってくる、重要な曲です。
 まずは原作を読んでみましょう。

「私はこの稿を起こす前に、なんどこのレコードをかけてみたかわからない。そしてなんど聞いても私はそのつど、凄然たる鬼気にうたれずにはいられなかった。それは必ずしも、これからお話ししようとする物語からくる連想のせいばかりではなく、このフルートのメロディーのなかには、たしかに一種異様なところがあった。それは音階のヒズミともいうべきもので、どこか調子の狂ったところがあった。そしてそのことが、この呪いと憎しみの気にみちみちたメロディーを、いっそうもの狂わしく恐ろしいものにしているのである。」
  (角川文庫版より)

 それでは、今までに音楽化された「悪魔が来りて笛を吹く」は、どのようなものだったか。可能な限り、聴き比べてみました。
 まずは、有名なところで、西田敏行が金田一耕助を演じた、東映映画(角川春樹はプロデューサーで、厳密には角川映画ではありません)の音楽から。
 サントラのCDは96.4.20 コロムビアCOCA13297 ですが、現在は絶版。――でしたが、2001年に、カルチュア・パブリッシャーズという会社から、リニューアル盤で再発売されています。
(ジャケット画像などは、「金田一耕助博物館」の、「金田一さん、発売中ですよ!」のページをご覧下さい)
 この映画の音楽は、有名な尺八奏者の山本邦山と、元サディスティック・ミカ・バンド〜サディスティックスのキーボード奏者だった今井裕が共同で作っていますが、問題の曲は、山本邦山の作曲によるもので、「黄金のフルート」と名付けられています。なお、「角川映画メモリアル」というCDにも、単独で収録されています。
 まず感じるのは、この曲はクラシックではないな、ということです。名曲ではありますが、映画のテーマ曲として、ややフュージョンっぽく作られたものです。また、尺八奏者の作曲ですので、少々日本調でもあります。
 原作の設定から考えると、この曲は、クラシックの独奏曲として発表されているはずですから、その意味では、少なくとも原作とは違う、と言っていいでしょう。
 次に、これもテーマ曲だから当然といえば当然ですが、「調子の狂った」、「呪いと憎しみの気にみちみちた」メロディーではありません。どちらかというと、哀愁の漂う、切ない曲です。
 曲として、また映画のテーマ曲としては、この曲は名曲です。今井裕氏は、サントラのライナーで、この映画の音楽は「透明感を出そうと思った」と言っていますが、山本邦山のメロディーも、そういう雰囲気を出しています。
 それは成功しています。おそらくこれから先、「悪魔が来りて笛を吹く」として残っていくのは、この曲でしょうね。
 ただ、原作とは違う、と私は思います。
 次にご紹介したいのは、上に挙げました「金田一耕助の冒険 特別編」(在庫あり)の中の、「悪魔が来りて笛を吹く」です。
 これは、作・編曲が羽田健太郎で、全体はフュージョンっぽく仕上がっていますが、フルート曲は、そのイントロダクションとして出てきます。
 これも、ちょっと日本調の部分がありますが、映画版よりは、クラシックの独奏曲に近く、また、不安を感じさせる出だし、ちょっと調子外れの部分もあり、原作のイメージに、より近づいています。これも、佳作と言っていいでしょう。
 さて、次にご紹介するのは、TV「横溝正史シリーズ」の「悪魔が来りて笛を吹く」です。
 このテレビ映画は、映画と肩を並べる、ある意味では映画よりできのいいものですが(キャスティングも豪華)、それは映像のページで語るべきこととして、ここでは第1回の冒頭、10分ほどから、「悪魔が来りて笛を吹く」の曲が流れ、その後も劇伴にアレンジされたりしながら、要所要所に繰り返し流れて、ドラマ全体の通奏低音となっています。
 作曲したのは、「上を向いて歩こう」の中村八大。たぶんこの曲が、原作にいちばん近いイメージだと思います。昭和二十年代に発表された、クラシックの独奏曲として、充分なリアリティを持ち、「一種異様な」「どこか調子の狂った」ミステリアスなところがあります。前の2曲に比べて、甘さがないのです。この、甘さのない、暗い曲は印象的で、放映された25年前から、はっきりとメロディを覚えているほどです。
 クラシックの独奏曲に近いという点からも、このヴァージョンが、いちばん原作に近い、と言っていいでしょう。その意味では、私はこのヴァージョンを、第一に推します。
 また、この曲には、実は小説のメイントリックに絡む、ある仕掛けがあるのですが、それを初めて活かしたのも、この作品でした。
(ただし、フルートをやっている人の話では、それは作曲上、不可能ではないか、というご意見がありました。どうやら、映像上のマジックのようです)
 「横溝正史シリーズ」がCD化される、という計画はあったようで、それはまだ実現していないのですが、もしCD化される場合には、第一に収録して欲しい曲です。
 現在発売されているDVDの上巻で、たっぷりと聴くことができます。ドラマとしてのできもいいので、ぜひ見て、聴いていただきたいですね。

 さて、この項も長くなりましたので、ここで打ち止めにしようと思ったのですが、たまたま、あと2本の「悪魔が来りて笛を吹く」が家にあったので、ざっと聴いてみましょう。
 一つは、2時間版「金田一耕助シリーズ」。音楽は、映画音楽のベテラン、津島利章です。
 これも、ベテランの曲だけあって、原作のイメージを活かした曲なのですが、テレビ映画の劇伴の域を超えず、印象的なフレーズにはなっていません。私の感想としては、曲として地味です。印象に残らないんですよね。
 個人的には、原作とはまるでイメージも設定も違う、椿美禰子役の西村知美がこの曲を吹くところは、好きなんですが。
 原作といえば、この作品は、登場人物に到るまで、原作とはかなり違っているのですが、この曲にしかけられた原作本来の仕掛けは、前面に押し出されています。その意味では、悪くない作品だと思います。
 最後が、どうも評判の悪い、片岡鶴太郎版の「悪魔が来りて笛を吹く」。音楽は石田勝範、「西部警察」や特撮の音楽で有名なんですが、調べてみると、「僕の名前はヤン坊」のヤンマー天気予報の作曲家でもありました。
 このドラマは、あまりに原作と設定が違いすぎ(これは片岡鶴太郎版のシリーズ全体に言えることです)、これを見ても原作については何一つ分からないほどですが、フルート曲についても、はっきり言って、印象に残らない曲です。そのためか、原作にない役で出てくる牧瀬里穂(なんとまあ、磯川警部の娘)に、「なんか悲しゅうて、おそろしい曲」、とセリフで感想を言わせています。言わなきゃ分からないんじゃしょうがありませんが、実際、他の劇伴のほうが目立つぐらいなんですよねえ。
 ただし、その目立たない曲も、ラストの30分での使われ方は、わたくしごひいきの本田博太郎の力演もあって、いちおう活かされては、います。だからといって、ドラマ全体を救うほどではないのですが。
 ということで、ざっと5曲聴いてみたところでは、原作ファンの私としては「横溝正史シリーズ」、一般的にアピールする曲としては、映画の「黄金のフルート」が名曲、と言えるかと思います。

●映画「八つ墓村」サントラを聴く(二つ)

 DVDの発売により、渥美清版の映画「八つ墓村」(77年)が、再評価されているようです。
 映画そのものについては、映像のページで語るべきことですが、ひと言で私の感想を言うと、「世の中も変わったなあ」、です。
 何しろ公開当時は、ヒットはしたものの、原作ファンには悪評ふんぷんたるものがあったのですから……私も、何じゃこりゃ、と思いました。
 これは、私がまだ若く、原作原理主義者だったからかもしれませんが、実は私、当時、「八つ墓村」の原作は読んでいませんでした。他の横溝正史作品、また市川崑の映画などに比べて、「何じゃこりゃ」、だったのでしょう。
 それは、音楽についても、同じ印象でした。あまりにも古過ぎる、と思っていたのです。
 芥川也寸志を嫌いではなかったのですが、当時の邦画大作と言えば、フルオーケストラの仰々しい音楽、と相場が決まっていて、それに私は、飽きていたのですね。
(基本的に、私はクラシック調の映画音楽は好きではなく、なので「スターウォーズ」の音楽も好きではありません)
 そこへもってきて、市川崑の「犬神家の一族」が、大野雄二の(まだ)新鮮なフュージョンで、映像と相まってしゃれていたものですから、その後に、こんな「赤穂浪士」が来られてもなあ……というのが、正直な感想でした。
 ちなみに「赤穂浪士」というのは、芥川也寸志が64年に担当したNHK大河ドラマのことですが、そのテーマソングと、この映画の「落武者のテーマ」が、そっくりなんですね。これは、いまCDを見ると(発売元:カルチュア・パブリッシャーズ CPC8-3039)、シングルカットされていて、映画館でも幕間に流れていたんですが、言葉は悪いですが、「まんまじゃん」と思ったものです。
 今聴いても、本当にそっくりです。上記CDのライナーでは、「構造的に共通」としていますが、よく言えば、同じ曲想のヴァリエイション、悪く言えば、使い回しに近く感じます。
 それが必ずしも悪いとは言えない、と思えるようになったのは私が歳を取ったからで、高校生の私には、ちょっと許せないような気持ちでした。それがますます、この映画の音楽を嫌わせたんですね。
 しかし、その後、話題作は何でも大野雄二、の時代を経て、映画音楽もずいぶん変わりました。だいたい今、「大作」そのものがありません。なので、「大作音楽」も、なくなりましたね、すっかり。
 そうした時を経てから聴くと、この音楽は、かえって新鮮です。芥川也寸志は、クラシックの第一人者ですから、堂々たる風格と全体の統一を持って、聴かせてくれます。
 中でも特に、鍾乳洞の中を萩原健一と小川真由美がさまよう、「青き鬼火の淵」は、そういえば最近、こういうナイーブで品格のある曲を聴かないなあ、いいなあ、と思い直させてくれました。
(この辺も、ライナーと意見が分かれますが)
 映画のほうにはいろいろ疑問があるのですが、音楽に関しては、このサイトのために「八つ墓村」を買ったのは、得をしました。
 角川映画が流行らせた、イメージソング的なサントラをまず出して、映画にそれを当てはめるような作り方ではない、本来の「劇伴」としての映画音楽も、いいもんだな、と思い直せたので。

 さて、映画「八つ墓村」は、もう一本あります。96年の豊川悦司版、市川崑監督久々の横溝映画です。
 この映画があんまりだったので、渥美清版が再評価されているのかな、と思うような世評を買った映画でしたが、実は私、まだ全編通して見ていないんで(ラストの30分ぐらいTVで見てぐったりしたっきり)、これを機に、全編見てから、映像のページで語りましょう。
 で、映画はそうだが、音楽はどうだろう、と思って、サントラを買いました。
 音楽は谷川賢作。88、95、97年には、日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞しています。「最優秀」ではないので、ちょっと調べられませんでしたが(公式ホームページにも載っていないし)、たぶん「竹取物語」「四十七人の刺客」「八つ墓村」ではないか、と推定します。
 フィルモグラフィーを調べたら、86年の「鹿鳴館」以来、市川崑監督の作品をずっと手がけている人ですね。個人的には、その間にやった、「シャ乱Qの演歌の花道」(滝田洋二郎監督)に興味がありますが。
 これがどういうことかというと、要するに、市川崑がダメになった、と言われてから先の映画を全部、担当しているんです。
(市川崑の盛りは83年の「細雪」、そこから、少なくとも96年の「八つ墓村」までは、話題性はあっても作品的にはちょっと……というのが続きます。これは時期が来たら映像のページに写しますが、それだけに、「八つ墓村」から珍しく4年も休んだ後の「どら平太」がどうだったかには、興味があります)
 まあ、それはどうでもいいとして、では音楽はどうか。
 これが、もう3回も聴き直しているんですが、まったく記憶に残りませんでした、ワタクシには。残らなかったから3回聴かなきゃいけなかったほどで。
 ピアニストらしく、シンセサイザーを使った曲の雰囲気は、ある意味爽やか、しかし、印象に残るメロディはなし。アレンジは、普通。ご本人には悪いんですが、「どっちでもいいです」と言いたくなる、弱い音楽です。
 これが、市川崑監督との話し合いから生まれた「劇伴」だとしたら、それは映画の弱さの反映、なんでしょうなあ。
 いっそ、曲だけで自己主張はできなかったのでしょうか。市川崑も、「細雪」以降は「巨匠」になっちゃったから(逆に言うと、それまで約47年も「才人」ではあっても「巨匠」ではなかったのだから凄い人ですが)、無理だったのかなあ。
 主題歌は、作詞:谷川俊太郎(詩人・市川崑「火の鳥」の脚本)、作曲・唄:小室等(TV「木枯し紋次郎」)です。これも爽やかなフォークですが、「木枯し紋次郎」や「市川崑劇場」のような印象に残るものではなく、悪い意味で、水のようにひっかかりがありません。
 全体に爽やかなんだけれど、無個性。というのが、このサントラのまとめでありました。
 それは、かつてほとんどの横溝映像が(ATG「本陣」以来、渥美清の「八つ墓村」などを除いて)持っていた、「若さ」の喪失なのだろう、と思うんです。爽やかさをもって個性を出せるのが、「若い」ってことじゃないかと思うんですね。
 そうです。実は、横溝映像の魅力は、「若さ」だったことが、音楽から浮かび上がってきたんです。
 「金田一耕助の冒険」も、「まぼろしの人」も、石坂浩二版の音楽ではいちばん好きな「獄門島」も(映画ではベストとは思いませんが)「悪霊島」の「レット・イット・ビー」も、音楽が「若い」んですよねえ。そして、金田一耕助も若い。
 若さは、懐かしさでもあります。永遠に若く、それ故に懐かしい、横溝正史って――それでは広すぎるなら、金田一耕助って、そういうものなんじゃないでしょうか。
 だからこそ、こっちの「八つ墓村」は豊川悦司だったんでしょうが……。でも豊川悦司って、昔っから、若くないじゃん。
 映像面から語るべきことと交錯してしまいましたが、そういうわけで、こっちの「八つ墓村」サントラは、逆の意味で、大いに横溝映像への理解を深めさせてくれたのでした。(2002.5.14)



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